先日とあるお客さまが、事業をマーケットインの考え方で進めているというお話をお伺いしました。マーケティングを行っていると、マーケットインやプロダクトアウトという言葉を耳にしますが、これらはどういう意味なのか、どういった違いがあるのかを今回は書いてみたいと思います。
マーケットインとプロダクトアウト
プロダクトアウトとは?
プロダクトアウトとは、こういう製品があった方がいいのではないか?という作り手の考えを出発点として、ものづくりを始めるという考え方で、製品や企業の計画、技術ありきで、ものを作るという考え方です。
マーケットインとは?
マーケットインとは、市場やマーケット、ユーザーの声などをベースに商品作りを行う考え方のことを言います。
もともと日本は、戦後の高度経済成長の物が不足するなかで、供給が優先され、メーカー主導の技術改良で物が売れる時代が続きました。
しかし、高度経済成長の終わりとともに、日本のものづくりによる成長に陰りが見えた頃に、消費者の個別の欲求が顕在化し始めたことで、市場ニーズを捉えてものづくりをするべきという、マーケットインの考え方が普及し始めたという経緯があります[1]。
マーケットインは万能か?
作れば売れた時代が終わり、より消費者に受け入れられる商品づくりをしようという流れがマーケットインの流れを作りました。当時から現代に至るまで、日本のものづくりは自分たちが作りたいものを作っているから売れないのであって、もっと市場を見るべきという批判はいまだに耳にするように思います。
実際に今の筆者の感覚でも、プロダクトアウトよりもマーケットインで商品(サービス)づくりを行った方がよいという感覚がありますが、これらの流れが染み込んでいるからでしょう。
しかし、マーケットインだけではなくプロダクトアウトという考え方も軽視はできません。2008年に日本総研の紀伊信之氏の指摘もあるように、マーケットインも万能ではないという意見もあります。
インターネットの普及に伴い、「マーケットイン」を標榜して、一時期、「顧客の声を聞いた商品開発」がもてはやされました。しかし取組み事例の数ほど、それで大きな成果をあげたという話は聞こえてきません。「今の時代はプロダクアウトだ」と主張する人が指摘するように、「顧客の声」は万能ではありません。
マーケットインとプロダクトアウトの向こう側~二元論を超えて~(日本総研)
また、iPhoneやMacなどを生み出したスティーブ・ジョブスも「消費者に、何が欲しいかを聞いてそれを与えるだけではいけない。」という言葉を言ったそうですが、確かに顧客の声を聞いていてはiPhoneは生まれなかったであろうことは想像がつきます[2]。
プロダクトアウトのメリット・デメリット
ここまでの話を踏まえてそれぞれのメリットとデメリットを整理してみましょう。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
プロダクトアウト | ・まだ市場のニーズが顕在化していない革新的な製品を生み出せる可能性がある ・技術力やアイデアを活かすことができる ・マーケティングの費用を減らすことができる | ・作った製品が市場に受け入れられないリスクがある ・製品開発の方向性を間違えた時の変更にコストがかかる ・競合他社に先行事例を与えてしまう。 |
マーケットイン | ・顧客の声を反映した製品づくりを行える ・売上の予測が立ちやすい ・開発の方針を立てやすい | ・革新的なな製品は生まれにくい ・競合との差別化をしにくく、真似されやすい ・爆発的な売上を見込みにくい |
プロダクトアウトは、まだ顕在化していない「潜在的なニーズ」を捉えるのに適していると言われています。iPhoneなどはその代表的な事例といえそうです。
マーケットインでの最大の特徴は、すでに顕在化しているニーズを捉えやすいという特徴があります。問題が明確であるために、解決策を提案しやすく、結果として、売れやすい商品は生み出しやすくなります。
プロダクトアウト | マーケットイン |
---|---|
潜在的なニーズ | 顕在化したニーズ |
一方で、マーケットインはまだ誰も気づいていないような革新的な商品を生み出すのは難しくなります。市場の声は、言ってしまえば「素人の声の寄せ集め」であるという側面も否めません。
プロダクトアウトでの成功事例
iPhone
プロダクトアウトとして最も代表的な事例としてよく取り扱われています。スティーブ・ジョブスは
・消費者に、何が欲しいかを聞いてそれを与えるだけではいけない。
・製品をデザインするのはとても難しい。多くの場合、人は形にして見せて貰うまで自分は何が欲しいのかわからないものだ
という語録を残しているように、徹底的なプロダクト志向で成功を収めました。
ダイソン
ダイソンもプロダクトアウトの製品づくりを行っている企業といえます。以前カンブリア宮殿でダイソンの社長が登場していましたが、インタビューの中で「マーケティングはあまりしないで、よい製品を作ることにこだわっている。」といった発言もあったと記憶しています。
これからの製品・サービスづくり
では、我たちはどのような製品やサービスづくりを行い、どのように売って行けばいいのでしょうか?
まず、どこにでもあるような製品やサービスを提供している(まさに我々が行っているホームページ制作もそうでしょう)汎用的な商品については、マーケットインの比重が高い方が向いているのではないかと思います。
サービスがありふれている以上、製品のコア技術等での差別化は難しいため、どうやって売っていくか?という工夫が必要ではないかという考えです。マーケットインは顕在化しているニーズを捉えるのに向いています。
一方で、自社の製品や技術が競合と差別化しやすく、独自性が高い場合には、プロダクトアウトの比重が高い方が、より革新性が生まれやすい可能性があります。結果として、低価格競争を避けることも可能になるのではないでしょうか。プロダクトアウトは、潜在的なニーズを捉えるのに向いています。
もちろん、全てのケースにこれらが当てはまるという訳はなく、まったく逆の戦略も成り立つ可能性はあると思います。
本当に見るべきは顧客である
いずれにせよ、どちらのパターンにおいても重要なのは、その先にいるのは一人のユーザーであるという事実です。プロダクトアウトであったとしても、本当に顧客にとって喜びとなるのは何か?という目線でしょう。顧客志向型プロダクトアウトという言葉もあるようです。
お互いに補完し合う理想の関係
イメージで言えば、プロダクトとマーケットはともに相互に補完しあう関係が良さそうに思います。
ユーザー志向型プロダクトアウトという目線で製品づくりを行い、マーケットインの考えで、どうやって売るか、本当に売れるのか?という目線も持つ。こんな製品・サービスづくりができれば理想ですね。
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【参考】
[1]…プロダクトアウト/マーケットイン(Wikipedia)
[2]…ジョブズもいってた、日本メーカーがAppleに負けっ放しの理由